今、吉崎達彦著「1985年」を読んでいる。日本にとって特異な年であった丁度20年前の1985年を、政治や経済から消費・文化にいたるまで横断的に振り返る内容になっている。
国際政治の分野では、85年はゴルバチョフが登場した年である。西側諸国でも人気があって、ペレストロイカとグラスノスチを推し進めたゴルバチョフであったが、彼を持ってしてもソビエト連邦が甦らなかった事実は周知の通りである。経済は疲弊し、政府は硬直しきっていた。
ゴルバチョフが就任早々の5月16日に打ち出したのは、アル中追放のためのウオツカ追放である。経済の立て直しのためには労働規律の強化が必要とはいえ、国家計画として飲酒に厳罰で臨むというのは、かなりトホホな状況である。
(吉崎達彦著「1985年」より)
トホホなのは産業の分野だけに留まらない。軍隊も緩みっぱなしであった。
覚えておいでだろうか。私もこの本を読んで、そうそうこんな事もあったよなぁ、と思い出した。1987年5月、西ドイツの若者マティアス・ルストはセスナでヘルシンキを飛び立った。管制官にはストックホルムに向かうと告げたそうだが、何と冷戦下のモスクワへ飛んでいってしまう。Wikipediaの記事に拠れば、たまたまソ連国境警備隊の休日だったそうである。その隙を突いて、何も妨害されずに赤の広場に着いちゃった、って事になっている。休日だからって、空の監視を怠りはしないだろうと思うのだが、実際には突破されちゃったんだから仕方がない。
いや、仕方がないじゃ済まない。これを機に、ゴルバチョフは改革に反対していた国防相など軍関係者を大量に更迭した。
20年後も体質が変わらない?ロシア軍
赤の広場の事件から長い時間が過ぎた。ベルリンの壁も崩れ、ソ連も崩壊した。経済も今ではそこそこ発展しているようで、BRICsと言う言葉も生まれた。だが、軍隊はどうも変わらない様である。ちょっと前の、ロシア潜水艇の事故の後日談。
英語が読めたら…露海軍、説明書読めず潜水艇救出失敗
【モスクワ=古本朗】ロシア海軍の潜水艇AS28がカムチャツカ沖で浮上不能に陥り、英海軍チームに救出された事故を巡り、露海軍が自力救出できなかったのは、高性能の外国製救難装置を持ちながら、使い方が分からず壊してしまったからだ――という不名誉な内幕が、17日までに明らかになった。
露紙コムソモリスカヤ・プラウダなどによると、AS28が4日、深さ190メートルの海中で密漁者の網やロープに絡まり動けなくなった際、露海軍は先に英企業から買い付けた高性能の無人深海救難装置を投入した。
遠隔操作のアームで網などを切断してAS28を救い出すはずだったが、露海軍総司令官代行、ウラジーミル・マソリン大将によると、救難装置の遠隔操作を任されたスタッフは「どのボタンを押せばよいのかも知らない」有り様で、壊してしまった。救い出されたAS28の乗組員は、同紙に、「使用説明書が英語なので、誰も読めなかった」と説明した。
大将は「失態」の原因は「ロシア特有の無責任、ズサンさと怠慢にある」と怒り心頭で、艦隊検察部は、救難装置を搭載した水上艦の艦長を「職務怠慢」容疑で取り調べ中だ。(読売新聞)
引っかかった網が密猟者のものだった、のも十分トホホな気がするが。しかし、マニュアルをロシア語に訳してなかったのはまずかった。それに、英企業から受領する時に十分オペレーショントレーニングをやってもらったと思うんだが。買った時の担当者が異動したとか(笑)
ちなみに・・・私が勤務する会社にも外国製の装置がいくつかある。そしてマニュアルは英語のままであるケースがほとんど。ただ、日本の代理店が簡単な説明書(もちろん日本語)を渡してくれたりする。もちろん業者さんにオペレーショントレーニングはやってもらうし、自分達で大事なところをマニュアルから抜粋したメモを作ったりもするのである。高価な機械なもので、壊すと大変。だから入念な準備が必要、であるはずなのにロシア海軍ときたら・・・。
それにしても、無責任・杜撰さ・怠慢はロシア特有、と言っているのは興味深く思えた。働きぶりが怠惰なのはソ連時代からの名残なのか、と思っていたが違うのかも知れない。怠惰のルーツはソ連以前、帝政ロシアまで遡るのだろうか?ロシア一般に詳しい人がいたら、教えていただきたいと思う。
日本周囲に残る「冷戦」
1985年の話に戻る。20年経って色々な事が変化したが、日本にとっての仮想敵国も変化したと思う。
昔は間違いなく、日本にとって最大の仮想敵国はソ連であった。海上自衛隊も米軍と協力しつつ、ソ連の潜水艦をマークするのに必死だった。陸上自衛隊の中では旭川の師団が最強らしいが、これもソ連・ロシアの存在があるからだ。しかし、先に触れたロシア海軍の失態などのように、相当軍規が緩んでおるなと思わせる話が多い。幕末・明治以降、常にロシアの存在が日本の重しになってきたが、正直怖さが少し薄れた気がする。
ロシアに代わって近年クローズアップされてきたのが、北朝鮮そして中国だろう。誰も口では言わないまでも、日本人の心の中に北朝鮮が仮想敵として存在するようになったと思う。対北朝鮮世論は完全に硬化してしまった。そしてこれも誰も口にはしないが、中国を近い将来の仮想敵だと考える人は多いのではないだろうか?中国の軍事力は増強を続けており、アメリカも警戒心を隠さなくなってきた(参考)。
#逆に中国の人々の方も日本を随分警戒しているようだ。参考:中国人6割が「日本と再び戦争」との見方@備忘録
20年前、冷戦は続いていたが安全保障の面に関しては割と能天気であった。冷戦が終わってやれやれ一安心、と多くの日本人は(私も含めて)思ったのだけれど、ふと気が付くと日本の周りだけ冷戦が終わっていなかった・・・そんな印象をもっている。日本のそばに自由主義国とは政治体制の違う国が二つある。一つは残念ながら日本に危害を与える国である。もう一つは軍事プレゼンスを高めつつある。
余談ながら・・・・
政界引退後のゴルバチョフ、私が通っていた大学(私立)に来て講演したことがある。そんな営業もやってたのだ。私は、見に行かなかったけど。もちろん、ギャラがどの程度だったか知る由もなし。よくよく考えてみると、うちの大学は工科系単科大学なのであった。何で元政治家ゴルバチョフを呼んで来たのか、どう脈絡があるのか、よく分からないのである。
でも、呼びたくなるほど彼はチャーミングであった事は言えると思う。西側諸国で、彼が一番人気のあったロシアの指導者であることは間違いない、って事を裏付けるエピソード。
それとロシアの潜水艦救助部隊の怠慢も結構ひどいですよね。このニュースがリークされる数日前にロシアのインタファックス通信が、「新型の救助潜水艦をイギリスから導入する」と報じていたので、こんな調子なら、また無駄になるなぁと思ってました。
自衛隊は、こんなこと無いと思いたいですが、潜水艦乗務員による大麻所持事件や、護衛艦の座礁事件、そして護衛艦「たかなみ」のダメコン訓練では、操作するバルブを間違って浸水させる等、最近の自衛隊員の士気・練度には少々疑問視せざるを得ないようなこともありますね。
「抜かない刀を日々磨く」ばかりであったのが自衛隊ですから、訓練も「日常」になってしまうのですね、多分。何も戦闘でなくとも、救難活動その他で積極的に動いてもらった方が、モラルが保てると思います。
その件に関してまた若干の動きがあり、自分音ブログで記事にしましたので、TB致しました。
追伸
こちらのサイトを自分のサイトのリンク集に加えてもよろしいでしょうか?
9.11のテロ直後は米中間で協調路線となったようですが、最近元の木阿弥で、米国政府高官が色々けん制と思われる発言をやってますね。ガス田そのものよりも、駆逐艦がウロウロってのが米国を刺激するでしょう。
リンク集の件、了解であります。私もサイドバーのリンク集は「勝手に」作っておりますものですから。私の方もそちらに張るように致します。
東シナ海で、また再び駆逐艦が出現したようで、緊張が高まっています。中露合同演習などもありましたし、日本・台湾の国防当局はしばらく中国の動向から目が離せないでしょう。
米国の動向も気になりますが、台湾防衛を見捨てたような発言もあったので、少々気になります。中国が増長しなければ良いのですが。
追伸
Yamamoto「殿」というのは、ちょっと勘弁してください。